日本集中治療医学会から2025年4月7日、ホームページ上で「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024」が公開されました。前回から8年ぶりの改訂となるそうです。忙しいかたのために所要時間3分で目を通した気持ちになれる超ダイジェストを試みました。お時間ができた折にはぜひ原文に当たることをお勧めします。

日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024 これだけは!
ガイドラインの推奨文を読む前に、「Clinical Questionの分類」と「推奨文における推奨の強さとエビデンスの確実性」について確認しておきましょう。
Clinical Questionの分類
Background question, BQ:標準的な知識の提示・情報提供を行い、推奨は提示しない。
Foreground question, FQ
・GRADE推奨:GRADEシステムに則ってシステマティックレビューを行い、得られたエビデンスをもとに提示された推奨。
・good practice statement, GPS:介入による有益性がその有害性を上回ることが極めて常識的で、ランダム化比較試験が倫理的に実施不可能であり、かつ強い推奨を出すべきと委員会が判断した推奨。
・future research qustion, FRQ:重要課題だが推奨作成に十分なエビデンスがないため、推奨は提示しない。
推奨文における推奨の強さとエビデンスの確実性
推奨の強さ
1 強い推奨・非推奨
2 弱い推奨・非推奨
エビデンスの確実性
A 高
B 中
C 低
D 非常に低
1.栄養療法の一般的戦略
・栄養プロトコル 使用を弱く推奨 (2B) 。
・経腸栄養 vs 経静脈栄養 経腸栄養を弱く推奨 (2C) 。
・初期エネルギー量 意図的に少なくしないことを弱く推奨 (2B) 。
・高タンパク質 (>1.2g/kg/日) 投与を弱く推奨 (2D) 。
・早期経腸栄養 (<48時間以内) 強く推奨 (1B) 。
・循環動態不安定時の経腸栄養 行わないことを弱く推奨 (2D) 。
・補足的経静脈栄養(経腸栄養不足時) 併用しないことを弱く推奨 (2A) (ただし治療開始後 7-9 日目まで)。
・幽門後投与 vs 経胃投与 幽門後投与を弱く推奨 (2D) 。
・持続投与 vs 間欠投与(経胃) 持続投与を弱く推奨 (2D) 。
・経腸栄養不可時の経静脈栄養 BQとして、行わないことは予後を悪化させる可能性あり 。
2.栄養療法における特定の栄養素
・ω-3 系脂肪酸強化 投与を弱く推奨 (2C) 。
・グルタミン強化 投与しないことを弱く推奨 (2D) 。
・消化態/成分栄養剤 窒素源として意図した使用は行わないことを弱く推奨 (2D) 。
・アルギニン強化 投与しないことを弱く推奨 (2D) 。
・高脂質/低糖質栄養剤 投与しないことを弱く推奨 (2C) 。
・脂肪乳剤(経静脈栄養中) 投与しないことを弱く推奨 (2D) 。
・プレバイオティクス 投与を強く推奨 (1B) 。
・プロバイオティクス 投与を弱く推奨 (2C) 。
・シンバイオティクス 投与を強く推奨 (1C) 。
・ビタミン・微量元素 BQ として、欠乏リスクが高いため適切に評価・補充を検討、過剰投与には注意 。
3.栄養モニタリングと特定の病態
・栄養評価(栄養療法前) GPSとして、行うことは必要。
・間接熱量測定 実施を弱く推奨 (2B) 。
・窒素バランス BQ として、タンパク同化評価の指標となりうる 。
・腸管不耐の評価 BQ として、胃残量・性状、腹部所見、画像、乳酸値などを組み合わせる 。
・誤嚥リスク低減法 BQ として、持続投与、幽門後投与、体位、薬物療法など 。
・下痢・便秘対策 BQ として、栄養剤・投与法選択、薬物療法、排便管理システムなど 。
・肥満・低体重患者の栄養 BQ として、現体重・理想体重・調整体重を用い個別化する 。
・Refeeding 症候群 BQ として、リスク評価、エネルギー制限、電解質モニタリング・補正を検討 。
・特別治療(ECMO, PP, OAM)中の栄養 BQ として、病態考慮し早期経腸栄養など適切に提供 。
4.小児の栄養療法
・栄養アセスメント GPS として、行う 。
・初期エネルギー量 BQ として、消費エネルギーの 60-70%程度か、超えない量を考慮 。
・高タンパク質 (>2.0g/kg/日) 投与しないことを弱く推奨 (2D) 。
・早期経腸栄養 (<48時間) 弱く推奨 (2D) 。
・早期経静脈栄養 (<48時間) FRQ(エビデンス不十分) 。
・幽門後投与 vs 経胃投与(第一選択) 幽門後投与を行わないことを弱く推奨 (2D) 。
・間欠投与 vs 持続投与(経胃) 間欠投与を弱く推奨 (2C) 。
・高濃度人工乳(人工乳投与中) 0.9-1.0kcal/mL 程度の投与を弱く推奨 (2D) 。
学会で拝聴した範囲では、「高タンパク投与に関して、漸増的な投与を想定しており、治療開始初期より大量投与したり、治療開始後意図的に投与量を減らすようなやり方は避けてほしい」と伺いました。また、「経腸栄養での栄養投与量が不足している重症患者に経静脈栄養を使用すべきか、については日本版敗血症診療ガイドライン2020とは相違点があるので注意してください」とのコメントがありました。
坂総合病院の現状はどうでしょうか?
当院ICUにおける栄養管理は、2000年代初頭にICU国際栄養調査に参加し「世界に比べて不甲斐ない自分達」を認識したあの頃と比較すると、各段に成長しています。可能な限り入室まもなく経腸栄養が行われるようになりましたし、行わない場合もなんとなくではなくリスク評価したうえでの判断になっています。ICU入室1週間以内の栄養投与量は、控えめに開始し漸増しつつ不足分を評価するスタイルなので、及第点と言えそうです。ICUのNST専門療法士や栄養に興味がある看護師のおかげでしょう。
今回のガイドライン、前回からの大規模な変更点はなさそうですが、「8時だヨ!全員集合」風にまとめると、「早期経腸栄養、プレバイオティクス、シンバイオティクス、やれよ!」になります。当院では、現在行われているタンパク投与量はガイドラインの推奨に不十分で、プレバイオティクス/シンバイオティクスにおいては急性期にほとんど投与されていないのが課題と思われました。今後、NSTがICUを利用する医師にガイドラインを紹介し、プロテインパウダーや食物繊維/シンバイオティクス製品の使用を勧めて良い結果を共有できたらと思います。