PICCを始める前に…その1|皮膚へ正しい緊張のかけかた
坂総合病院外科では、東日本大震災後ぐらいの時期から、中心静脈栄養が必要な患者さんに対しほぼ全例PICCを使用しています。尺側正中皮静脈を穿刺することが多いです。まれに静脈炎や静脈血栓症が起こりえますが、鎖骨下や内頚静脈穿刺に比べて重篤な合併症がないため頻用しています。
初期研修医の皆さんにも積極的に実施してもらっています。が、最近ちょっと気になったので手技の基本を再確認してみますね。
静脈留置針を穿刺する際、みなさんは針を持ってないほうの手をどうしていますか。施行者が穿刺部位の皮膚に緊張をかけ、かつ静脈を固定する目的で、患者さんの皮膚を親指などで末梢側に引っ張りますよね。
たまに中枢側のみを引っ張っている研修医の先生を見かけます。穿刺部位の皮膚や静脈がたるみますので修正しましょう。
PICC挿入手技完遂の9割は確実な末梢静脈穿刺にかかっています。一球入魂で穿刺しましょう。当院でPICCを行う機会はたくさんありますので、初期研修医の皆さんはまず、看護師さん並みに末梢静脈路を確保できるよう、機会を作って修練をお願いします!
PICCを始める前に…その2|静脈留置針を進めるときに…
ちゃんと手前に皮膚を引っ張って、斜め45度で穿刺に成功。あとは外筒と内筒の差だけ針をちょっと進めて、静脈の走行通りに針を寝かせて外筒のみ進めて…っていうときに。皮膚を引いていた親指がジャマで針を寝かせられず立往生。しょうがないので親指をずらしたとたんに皮膚と血管が動いて、針がズレてしまい、残念な結果になることも。
筆者が1年目のときは、
「外筒が血管内に無事挿入されるまでは死んでも親指は動かすな」と教わりました。
なんとおおげさな。
針を寝かしても支障がないように、最初からジャマにならない位置に親指を置いて皮膚を引っ張ると良いようです。
内筒も外筒も絶対血管内に入っている状態になったら、親指をずらしても大丈夫です。
親指じゃない指を使用するかたもいらっしゃるかもしれませんが原理は同じではないでしょうか。穿刺不成功の際はすぐに駆血帯を外して、3分以上は圧迫しましょう。これを忘れて血腫の成り立ちを観察してしまう研修医の先生がたまにいます。介助者は声をかけましょう。
初期研修医によるPICC挿入の実際
初期研修1年目1クール目で外科に来た時代の水上医師による、PICC挿入手技です。彼はもともと手技が上手でしたが、最後のコメントが彼の社会性(ヒエラルキーへの服従?)を感じさせます。
静脈が見えないときは…上腕をエコー下で
どうしても肘付近で穿刺に適当な静脈が視認できないときは、上腕にエコーを当ててみましょう。上腕動脈をはさむように撓側、尺側に必ず静脈が1本ずつ並走しています。動脈からやや離れてさらに尺側に太目の静脈が見えることも多いです。
- 穿刺面が斜面になるよりは水平面に近い。
- 動脈穿刺の危険が少ない。
- 鎖骨下静脈への合流が素直なので、撓側よりは尺側。
筆者は上記項目を大事にしているので、動脈から離れた尺側の静脈が十分な径で見えるときは、これを第一選択にします。上腕は外転+軽度外旋し、できるだけ穿刺経路が扱いやすい面になるよう心がけましょう。しかし、それでも尺側の静脈は、ときに内側過ぎて穿刺面が斜面となり、穿刺しにくいことがありますね。撓側の静脈のほうが穿刺面が水平面に近い、または浅いところにあり容易そうな場合は、撓側を選択します。
PICCについては、カーディナルヘルス(元コヴィディエン)のサイトが詳しいですよ。
まとめ
- PICC挿入の機会は不意に訪れます。それまでに末梢静脈穿刺を確実にしておきましょう!
- 末梢静脈穿刺が成功すれば、PICCは9割がた成功したも同然ですよ!
- 肘部での静脈穿刺が困難な場合は、上腕でエコー下に穿刺を試みましょう!
- 上腕は長針が安心です。