初療時の栄養評価
患者さんが入院したら、まずはバイタルサインの安定が最優先です。疾患の治療方針が定まり、バイタルサインが安定できたら、次に栄養療法を考えましょう。栄養療法は正解がたったひとつではありませんので、トライ&エラーで患者さんにとっての適正化をはかりましょう!
普段のADL、食事内容、義歯の有無、食事介助の有無を、入院当初に患者さんご本人やご家族から伺えると、病状が回復した後の見通しを持った計画が立てやすいですね。
栄養療法は以下の流れで行います。
栄養スクリーニング
経口摂取できる患者さんに対し、「何となく念のため絶食とし、低カロリーの輸液をしてしまう」といった医原性の低栄養を引き起こさないよう注意しましょう。施設で使われている種々のスクリーニング方法で低栄養のリスクありとされた患者さんは、さらにアセスメントを行います。当院ではスクリーニングにSGAを用いています。
エンシュアでおなじみのアボットが運営する「feedM.E.」というサイトからダウンロードできる「臨床栄養ハンドブック」が便利です。SGAの内容はp32-33をご参照ください。
GLIM基準
欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)を中心に、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)をはじめ多くの主要栄養代謝学会が終結し、2018年9月に、Global leadership initiative on malnutrition(GLIM)という名で世界規模で共通の低栄養診断基準が発表されました。2019年以降、坂総合病院NST実地修練でも症例レポートはGLIMに従ってアセスメントし記載して頂いています。ほとんどが重症になりますが…。
現症3項目と病因2項目のうち、両方とも1つ以上が該当する場合、低栄養と診断します。
- 現症:体重減少 低BMI 筋肉量減少
- 病因:食事摂取量減少/消化吸収能低下 疾患による負荷/炎症の関与
次に、現症の程度から重症度を判定し、各病因に応じて介入します。ここで注目すべきは炎症の有無に着目して病因を4つに区分したことです。
- 慢性疾患で炎症を伴う
- 急性疾患あるいは外傷で高度の炎症を伴う
- 炎症はわずか、または炎症を認めない慢性疾患による
- 炎症はなく、飢餓による(社会経済や環境的要因による食料不足に起因)
がん、慢性心不全、慢性腎不全も炎症の関与が明記されました。炎症があると異化が進みますので、エネルギーとタンパクを適切な比率で投与する必要があります。また、筋タンパクの維持には適度なリハビリテーションも重要です。
初期評価では、食事、体重、ADLの様子のほか、背景にある炎症の有無にも注目しましょう!
栄養評価によく使われる計測値・検査値
入院したら、絶対はかるでしょ!と思われる項目を挙げておきます。
BMI | 日本肥満学会基準 | WHO基準 |
---|---|---|
<18.5 | 低体重 | Under weight |
18.5≦~<25 | 普通体重 | Normal range |
25 ≦~<30 | 肥満(1度) | Pre obese |
30 ≦~<35 | 肥満(2度) | Obese Class I |
35 ≦~<40 | 肥満(3度) | Obese Class II |
40≦ | 肥満(4度) | Obese Class III |
体重減少率 | 1週間で1~2%以上 1か月で5%以上 3か月で7.5%以上 6か月で10%以上 |
坂総合病院で当日結果がわかるもの:アルブミン、クレアチニン、総コレステロール、中性脂肪、コリンエステラーゼ、末梢血総リンパ球数
上記数値でも栄養状態の判断が困難な場合、半減期が短く鋭敏な、rapid turnover proteinを測定してみましょう。坂総合病院では外注なので結果がわかるまで1週間程度かかります…。結果判明は遅いですが、トレンドで見ると改善しているのかどうか判断の助けになりますよ。
ただし、これらの指標は栄養以外の要因で変動があり得ることにご留意ください。
トランスサイレチン (プレアルブミン) | レチノール 結合タンパク | トランスフェリン | cf.アルブミン | |
---|---|---|---|---|
略称 | TTR | RBP | Tf | Alb |
半減期 | 2日 | 0.5日 | 7日 | 21日 |
基準範囲 | 20-40 mg/dL | 2.2-7.4 mg/dL | 200-350 mg/dL | 4.0-5.0 g/dL |
高値 *過栄養以外 | 腎不全 甲状腺機能亢進 | 腎不全 | 鉄欠乏性貧血 | |
低値 *低栄養以外 | 肝細胞障害 感染症 悪性腫瘍 | 肝細胞障害 ビタミンA欠乏 炎症 組織壊死 | 感染症 細胞壊死 悪性腫瘍 肝細胞障害 | 炎症 |
栄養プランニング
以下の点に留意しながら計画します。
- ゴールの設定:見通し(自宅退院?施設入所?転院?)
- どこから:経口?経鼻?胃瘻?静脈?
- 何を:食種、栄養剤、輸液オーダー
- どのように:投与速度
1日必要量の計算
1日必要水分量➡必要エネルギー量➡タンパク投与量➡脂質投与量➡糖質投与量の順に決定します。
30~40×体重(kg)ml/日
基礎代謝量×活動係数×ストレス係数
簡易式:25~30×体重 kcal/日
- タンパク g/日:1g×体重(kg)×ストレス係数
- 脂質 g/日:0.5~1g×体重(kg)
- 糖質 kcal/日:1日必要エネルギー量ータンパクのエネルギー量ー脂質のエネルギー量
各栄養素1gあたりのエネルギーは常識として覚えておきましょう!
- 糖質:4 kcal
- タンパク:4 kcal
- 脂質:8 kcal
日本人の食事摂取基準を参考にします。
エネルギー計算において、以下の係数が教科書に示されていますが、確固たるエビデンスがありません。
簡易式:25~30×体重 kcal/日で計算し、適宜増減するのがよいと思います。深刻に考えないで~。
活動係数 | |
---|---|
寝たきり | 1.0 |
歩行可 | 1.2 |
一般職業就労者 | 15 |
ストレス係数 | |
---|---|
合併症なし | 1.0 |
感染 軽症 | 1.2 |
中等症 | 1.5 |
重症 | 1.8 |
褥瘡 | 1.2-1.6 |
タンパクは、侵襲や保存期腎不全の有無が投与量に影響するので、ストレス係数を適宜考慮したほうがよいかもしれません。でも、深刻に考えないで~。
Stress factor | |
---|---|
正常 | 0.8-1.0 |
軽症(小手術、骨折) | 1.0-1.2 |
中等症(腹膜炎、外傷) | 1.2-1.5 |
高度(多臓器不全、熱傷) | 1.5-2.0 |
保存期腎不全 | 0.6-0.8 |
維持透析 | 1.0-1.5 |
栄養投与量の覚えかたは、こんなイメージでどうでしょうか?
栄養療法の実施
食事オーダー、経腸栄養、静脈栄養の実際のところは、改めて詳しくお話ししていきますね。栄養ちびガイドにも例を示しています。
経腸栄養、静脈栄養、どちらの経路を選ぶか、目安となるフローチャートを示しました。
坂総合病院で行われている急性期、慢性期の経腸栄養オーダーの例を示しました。
坂総合病院で行われている静脈栄養のオーダーの例を体格別に示しました。
坂総合病院のおもな食事オーダーのエネルギー・タンパク設定をを示しました。