輸液製剤のおおまかな組成
輸液製剤の基本は等張液であり、血漿浸透圧と等しく作られています。そうでなければ溶血してしまいます。細胞外液補充液の代表格が「生理食塩水(0.9%NaCl)」であり、維持輸液は 「生理食塩水」 と「5%ブドウ糖液」の混合でできています。どちらも輸液されるとまず血管内(=細胞外)に入りますが、ブドウ糖はすぐにインスリンの作用でただの水になり、細胞内へ取り込まれます。
「お塩(Na)の割合が多ければ細胞外の水分補充(=循環血漿量の補充)の役割が大きく、糖の割合が多ければ細胞内への水分補充の役割が大きい」と理解しましょう!
維持輸液の組成|生理食塩水とブドウ糖の黄金比
実際には1号液、3号液を使いこなせば十分です。1号液(ソリタT1)は小児の脱水における開始液としてよく使用されます。3号液(ソリタT3)はとりあえずの維持輸液として頻用されますね。ソリタT1はKフリー輸液として重宝されますが、ソリタT3に比し糖が少なくNaが多いことにご留意ください!
維持輸液の種類
おおざっぱに言いますと、維持輸液は当院で以下のように使われています。
- 小児の輸液、とりあえずは…ソリタT1(Na多め、Kなし)。
- 大人の絶食、とりあえずは…ソリタT3(電解質と薄い糖だけだから、本当にとりあえずね)。
- 本気の静脈栄養が必要になったら、まずは末梢から…ビーフリード(アミノ酸入り、ビタミンはB1しか入ってないので末梢用ビタミン剤の追加をお忘れなく)。
- 末梢栄養輸液中にK高値になっていたら、プラスアミノ(ビーフリードのKフリー版の位置づけですが、ビタミンB1は入っていません)。
- 中心静脈栄養に移行する前は、数日おきに糖濃度を漸増した内容にするのが安全でお勧めです。例:ソリタT3➡ビーフリード➡ピーエヌツイン1号➡ピーエヌツイン2号
名称 | 糖濃度(%) | Na mEq/L | K mEq/L | Cl mEq/L | アミノ酸 | 用途 |
---|---|---|---|---|---|---|
ソリタT1 | 2.6 | 90 | ー | 70 | ー | 小児の開始液 |
ソリタT3 | 4.3 | 35 | 20 | 35 | ー | 4本で健常人の1日維持量 |
ビーフリード | 7.5 | 35 | 20 | 35 | + | アミノ酸入りPPN |
プラスアミノ | 7.5 | 35 | ー | 35 | + | ビーフリードのKフリー版 |
KNMG3号 | 10 | 50 | 20 | 50 | ー | TPNへつなぎ |
PNツイン1号 | 12 | 50 | 30 | 50 | + | TPN |
PNツイン2号 | 16.4 | 45 | 27 | 45 | + | TPN |
cf.ラクトリンゲル | ー | 130 | 4 | 109 | ー | 細胞外液補充液 |
ソリタT3の役割
ソリタT3は、健常人の水分・電解質の平均1日維持量を目安にしています。体重50kgの成人が絶食した場合に1日にソリタT3を500ml×4本=2000ml投与すればよいという設定です。
ソリタT3×4本の中身は…
- Na:日本人の平均食塩摂取量8-12gより少なめで、70-100mEq/日程度。(*Na:1g=17mEq)
- K :最小必要量の40mEq/日程度。(*K:1g= 13mEq)
- 糖質:ソリタT3×4本はブドウ糖約80g。ブドウ糖100g(約400kcal)の1日投与量は、肝臓のグリコーゲンを切り崩さない最低限度のエネルギーとされています。しかし、許容範囲は1週間程度であり、さらにこれっぽちの投与のみを継続すれば筋肉が確実に異化してしまいます。
ということで、あくまでも、居酒屋におけるお通し程度の役割ですよ~。
維持輸液投与方法の原則
- 絶食時は1日必要輸液量を24時間で投与するのが基本です。 注:食事摂取がある場合は、厳格な尿量測定がなければ、QOLを重視して日中のみ行うなどの間歇的な輸液が許容されます。
- 糖濃度は日内で上げ下げしない。原則、24時間同じ糖濃度で輸液したほうがからだにやさしいです。 良くない例:1日2本輸液するとして、1本目PNツイン1号(糖濃度12%)、2本目ソリタT3(糖濃度4.3%と急降下)。
実際は以下のように、細胞外液補充液と維持輸液を組み合わせて行うことが多いですね。その場合、維持輸液は24時間投与速度は一定でメインルートから、細胞外液補充液は別ルートもしくはメインルートの側管から循環動態に合わせて可変的な速度で投与されます。
維持輸液中に血清K高値になってしまったら…
維持輸液中に血清K高値になった場合、「とりあえずソリタT1に変更する」は一時的にアリだと思います。しかし、ソリタT1は生食と5%ブドウ糖を1対1に割った輸液がベースですので、ブドウ糖濃度が低く(2.6%)、Na濃度が高いので、いつまでも通常の維持輸液の代わりに使用し続けるのはお勧めできません。
当院採用輸液で血清K高値の際の一時的な代替輸液は既製品ですと…
- ソリタT3➡ソリタT1 ただし糖濃度は半分、Naは倍以上の濃度です。
- ビーフリード➡プラスアミノ K、ビタミンB1が入っていない以外ほぼビーフリードと同一。当院は500mlのみ採用。
これしかありません。カリウムフリー輸液は、生理食塩水やブドウ糖の組み合わせで自分で作るしかありませんが、
ソリタT1、プラスアミノ以外のカリウムフリー輸液は、こちらをご利用ください。➡当院自作カリウムフリー輸液組成