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必須微量元素セレン、亜鉛、銅について気にかけてみましょう。|その2:亜鉛欠乏症

少なくとも10~30%の日本人が、顕在化していない場合も含め、亜鉛欠乏状態にあると予想されています。生体内には活性を保持するために亜鉛を必要とする亜鉛酵素が多数存在します。いわば縁の下の力持ちである亜鉛に注目してみましょう。

目次

どんなときに亜鉛欠乏症を疑うか?

亜鉛欠乏症のリスク要因

亜鉛欠乏の要因には、摂取不足吸収不全需要増大排泄増加などがあります。

分類具体的な要因
年齢・生理的要因 乳幼児・小児:低出生体重児、早期産児、完全母乳栄養が長期間にわたる場合(成乳は育児用調整粉乳に比べ亜鉛濃度が低い) 、乳児期の体重増加が著しい時期 。
妊婦・授乳婦:必要量に対して摂取量が不足している(付加量+2〜3 mg/日が必要)。
高齢者:食事量の低下、消化吸収能の低下、慢性疾患の罹患、薬剤の使用など。
低栄養精神疾患
栄養・食事要因 摂取不足:動物性蛋白の少ない食事(菜食主義者) 、偏食。
静脈栄養・経腸栄養:亜鉛補充が不十分な静脈栄養、経腸栄養。
吸収阻害:フィチン酸、食物繊維の摂取過剰 (穀類、豆類の外皮など)、カルシウム、乳製品、コーヒー(タンニンを含む)、オレンジジュース、アルコール 。
疾患・病態要因 消化器疾患:先天性腸性肢端皮膚炎(遺伝子異常) 、慢性肝障害(慢性肝炎、肝硬変)、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、短腸症候群 、膵癌術後。
腎疾患:糖尿病、慢性腎不全 、ネフローゼ症候群(尿中蛋白排泄増加)、血液透析 。
内分泌/代謝:糖尿病 。
循環器疾患:心不全(尿中排泄増加)。
その他:溶血性貧血 、周術期合併症、過度なスポーツ(発汗、溶血)。
薬剤要因 キレート作用を持つ薬剤の長期服用(尿中排泄増加):D-ペニシラミン、L-ドーパ、炭酸リチウム、インドメタシン、抗がん剤など。
その他:H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬、抗血栓薬、副腎皮質ステロイド、抗貧血薬など 。

亜鉛欠乏症の診断基準

亜鉛欠乏症は、臨床症状血清亜鉛値によって診断されます。

  1. 臨床症状/所見 下記のうち1項目以上を満たす
    皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡(難治性)、食欲低下、発育障害(小児で体重増加不良、低身長)、性腺機能不全、易感染性、味覚異常、貧血、不妊症。
  2. 他疾患の否定 上記症状の原因となる他の疾患が否定される。
  3. 血清亜鉛値
    1. 亜鉛欠乏症60 µg/dL未満
    2. 潜在性亜鉛欠乏60〜80 µg/dL未満
    基準値80〜130 µg/dLが適切。
    測定時の注意: 早朝空腹時に測定することが望ましい。
  4. 亜鉛補充による症状の改善
    亜鉛を補充することにより症状が改善する。

確定診断 (Definite):項目1、2、3-1、4をすべて満たす場合 。

潜在性亜鉛欠乏症 (Definite):項目1、2、3-2、4をすべて満たす場合。

推定診断 (Probable):亜鉛補充前に項目1、2、3を満たす場合(亜鉛補充の適応になる)。

皮膚炎は特徴的で肢端や開口部(口、眼瞼縁、鼻孔、外陰部など)周辺、爪周囲に発症し、小水疱・膿疱、Candida感染を伴うことがあります。
脱毛は機械的刺激を受けやすい後頭部から始まり、次第に頭部全体に拡大します。眉毛なども脱落し全脱毛状態になるとされます。

亜鉛欠乏症の治療

治療開始基準

  • 原則: 診断基準の項目1(臨床症状)、2(他疾患の否定)、3(血清亜鉛値)を満たした場合が治療の適応になります。
  • 重要 潜在性亜鉛欠乏の範囲内(60〜80 µg/dL未満)でも、症状がある場合に限り亜鉛投与の適応になります。症状のない人への亜鉛投与は適応になりません 。
  • 亜鉛欠乏症状がない場合の補充考慮慢性肝疾患、糖尿病、炎症性腸疾患、腎不全では血清亜鉛値が低値であることが多く、亜鉛欠乏症状が認められなくても、基礎疾患の所見・症状改善を目的として亜鉛補充を考慮してもよいとされています。

治療方法

薬物療法(亜鉛製剤の経口投与)

対象投与量(目安)投与開始時の注意点亜鉛製剤の種類(保険適用)
学童以降〜成人50〜150 mg/日 治療当初は少ない量から開始し 、効果と副作用を見ながら1〜2か月ごとに増減します (1か月毎位を目安)。低亜鉛血症で保険適用があるのはヒスチジン亜鉛(ジンタス)と酢酸亜鉛(ノベルジン、ジェネリック)です 。ポラブレジンクもあります 。
幼児25〜50 mg/日
乳幼児・小児1〜3 mg/kg/日(食後)

有害事象とモニタリング(銅欠乏の回避)

亜鉛製剤の投与により、銅欠乏や稀に鉄欠乏性貧血をきたすことがあるため、注意が必要です 。

  • モニタリング数か月に1回は、血算(貧血、白血球減少確認のため)、血清鉄、TIBC、フェリチン、血清銅、血清亜鉛を測定します。
  • 銅欠乏の兆候:銅欠乏症がもたらす貧血白血球減少歩行困難や転倒などの症状・所見に注意します。
  • 高リスク時: 血清銅が20〜30 µg/dL以下、かつ血清亜鉛値が200 µg/dLを超える場合は銅欠乏に特に注意が必要です。
  • 銅欠乏が発現した場合: 亜鉛を中止しても血清銅や貧血の改善には数か月かかることがある 。銅欠乏にはココアを小さじスプーン1〜2杯/日投与してもよい
  • 治療中止: 亜鉛を投与して数か月間で亜鉛欠乏症の症状に変化がない場合は、亜鉛欠乏による症状ではないと判断して亜鉛投与を中止します。

目標値(治療の終了基準)

  • 血清亜鉛値の基準値: 80〜130 µg/dLが適切とされています。
  • 治療の終了基準: 亜鉛を投与して数か月間で亜鉛欠乏症の症状が改善しない場合は、亜鉛欠乏による症状ではないと判断して亜鉛投与を中止します。*症状によっては治療効果が見られるまで数か月かかる場合があります(例:皮膚炎は1〜2週間で改善するが、味覚異常や低身長症などは数か月)。

食事で何とかならないの?

結論から言うと何ともならないそうです。亜鉛欠乏症では食事療法だけでは改善しない場合が多いため、亜鉛製剤による薬物療法が必要です。

亜鉛含有量の多い食品

食品(100gあたり)亜鉛含有量(mg)
牡蠣14.0
ビーフジャーキー8.8
パルメザンチーズ7.3
煮干し7.2
ピュアココア7.0
豚レバー6.9

亜鉛を含む食材について以下のサイトが詳しいです。

まとめ

慢性肝疾患、糖尿病、炎症性腸疾患、腎不全ではしばしば血清亜鉛が低値とされており、亜鉛補充の考慮を忘れないようにしたいものです。一方で亜鉛過剰による銅欠乏、鉄欠乏にも留意が必要です。

参考文献

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