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必須微量元素セレン、亜鉛、銅について気にかけてみましょう。|その1:セレン欠乏症

微量元素
IT栄養士板先さん

カリウムやナトリウム、カルシウム、リン、マグネシウムは日常診療で皆さんが気にしてくださいますが、主に栄養オタク界隈で注目される微量元素、セレン、亜鉛、銅について、今回光を当ててみようと思います。セレン、亜鉛については日本臨床栄養学会からそれぞれ、「セレン欠乏症の診療指針2024」「亜鉛欠乏症の診療指針2024」が発行されていますよ。冒頭にダイジェスト的な要旨があり、短時間で理解できて便利です。

セレン

セレンは多くの酸化還元反応に関連している必須微量元素です 。セレンは魚介類、北米産小麦製品、畜産物に多く含まれ、主食と副食によって構成される一般的な食事を摂取していれば、セレン摂取量は適切な範囲に収まるとされています。

目次

どんなときにセレン欠乏症を疑うか?

セレン欠乏症のリスク要因

経腸栄養剤、静脈栄養剤近年はセレンを適切に含有する経腸栄養が使用可能となっている(エネーボ、イノラス)。
疾患小児疾患:重症心身障害児(者)、低出生体重児、未熟児、自閉症スペクトラム児 など。
腎疾患:慢性腎臓病、維持透析患者
心疾患:セレン欠乏症は心筋症に関連するが、心疾患自体がセレン欠乏の要因になりうるかは不明。
肝疾患:肝硬変、B型/C型肝炎ウイルスの持続感染、アルコール多飲、肝細胞癌への進展 。
神経性やせ症:過食・排出型は摂食制限型より頻度が高い。
吸収障害、喪失・消費増大腸管吸収障害、腎臓でのグルタチオン・ペルオキシダーゼ合成低下、尿蛋白増加に伴う尿からの喪失、透析液への漏出、炎症による消費の増大。

医薬品経腸栄養剤のうち、エレンタール、エンシュアリキッド、エンシュアH、アミノレバンENは、セレンをほとんど含有していないため、長期使用の際には補充が必要です。

セレン欠乏症の診断基準

セレン欠乏症には、心筋障害や心不全として発症するタイプと、四肢の筋力低下や爪の白色化など多彩な症状を呈するタイプの2種類が存在するそうです。血清セレン低値と臨床症状で診断します。次の4項目のすべてを満たす必要があります。

  1. 症状・検査所見のうち1項目以上を満たす。
    • 皮膚・爪: 爪白色化、爪変形、皮膚炎、脱毛、毛髪の変色
    • 心筋障害: 心筋症、虚血性心疾患、不整脈
    • 筋症状: 四肢の筋肉痛、筋力低下、歩行困難
    • 血液症状: 赤血球の大球性変化、大球性貧血
    • 検査所見: T3低値、AST/ALT上昇、CPK上昇
    • 心電図変化: ST低下、T波陰転化
  2. 上記症状の原因となる他の疾患が否定される。
  3. 血清セレン値が以下の参考基準値を満たす。
    • 0〜5歳 ≦ 6.0 μg/dL
    • 6〜14歳 ≦ 7.0 μg/dL
    • 15〜18歳 ≦ 8.0 μg/dL
    • 19歳以上 ≦ 10.0 μg/dL
  4. セレンを補充することにより症状が改善する。

長期経腸栄養や静脈栄養中は定期的に血清セレン値をチェックするのが無難です。長期TPN施行患者においては月1回の測定が臨床的に推奨されます。ESPENガイドラインでは必要に応じ3~6か月に1度の測定を推奨しています。

セレン欠乏症の治療

治療開始基準

  • 上記の診断基準1、2、3を満たした場合(推定診断)は、セレン補充治療の適応となります 。
  • 予防的投与: 経腸栄養(EN)や静脈栄養(PN)などセレン欠乏が危惧される症例では、血清セレン値を測定し、適宜セレン補充を行う必要があります 。
  • ESPENガイドラインでは、PN中に血清セレン値が0.75 mol/L (6.0 μg/dL)未満、ENにおいて0.4 mol/L (3.2 μg/dL)未満であれば常に補充を推奨しています 。

治療方法

経路投与量(目安)製剤・注意点
静脈投与成人: 100 μg/日(開始用量)。患者の状態により50~200 μg/日で調整、300 μg/日まで増量可能 。
小児(12歳未満): 2 μg/kg/日(開始用量)。1~4 μg/kg/日の範囲で調整 。
製剤: 亜セレン酸ナトリウム注射液(アセレンド)。 長期のPNに起因した欠乏症の治療はアセレンド 100 μg(4∼5 μg/kg/日)を経静脈的に投与する 。増量幅は12歳以上の患者は50 μg、12歳未満の患者は1μg/kgまでとする。
経口投与成人: 100∼500 μg/日 。
小児: 2~5 μg/kg/日を目安 。
製剤: セレン内服液(院内製剤)、セレン含有の栄養補助食品(テゾン、Vアクセルなど)。

過剰症への注意

  • セレンは過剰摂取により、嘔気、嘔吐、腹痛、吐血、急性腎不全、心電図異常など強い毒性を発現する可能性があります 。
  • 耐容上限量: 日本人の食事摂取基準2025年版では、成人男性の耐容上限量は400∼450 μg/日(75歳以上は400 μg/日)、女性は400 μg/日とされています 。
  • モニタリング: 定期的に血清セレン値を測定し、過剰にならないよう注意が必要です 。健常高齢者へのRCTでは、300 μg/日の群で死亡率が高かったため、高齢者への長期投与には注意を要します 。

目標値(治療の終了基準)

  • 血清セレン値の目標: 欠乏症が疑われる重症心身障害児(者)では、血清セレン値5∼15 μg/dLを目標値とすることが推奨されています 。
  • 治療終了の目安: セレン欠乏症の症状が消失し、血清セレン値が正常化した時点 。心機能が改善するまでセレン投与を継続します(心筋症は不可逆性となる危険性があります) 。

普段の食事で何とかならないの?

セレンは魚介類北米産小麦製品畜産物に多く含まれています 。日本の一般的な食事でも適切量の摂取が可能ですが、偏食の場合は注意が必要です 。

食品セレン含有量(µg/100g)
まぐろ110
かつお100
さば60
牛レバー50
ご飯(精白米)25

経腸投与が可能な症例では、セレン含有の栄養補助食品(テゾン、Vアクセルなど)や、セレン含量の多い自然食品(鰹節の粉末など)の投与が推奨されます 。
以下のサイトに各種微量元素の解説や食材における含有量が詳しいです。

まとめ

セレン欠乏症は、「長期静脈栄養管理もしくは長期成分栄養剤を用いた経腸栄養管理を受けている患者、人工乳もしくは特殊治療用ミルクを使用している小児患者又は重症心身障害児(者)」に起こりうるものとして長らく強調されてきましたが、それ以外にも小児疾患や慢性腎臓病、維持透析、心筋症、肝疾患、神経性食思不振症がセレン欠乏症に関連する旨、2024年のガイドラインの診断基準に明記されました。
2019年にアセレンド注100 μgが発売され投与方法も明確になっておりますので、リスクのある患者さんにおいては、治療適応を見落とさないよう留意しましょう。

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