銅はエネルギー産生や鉄代謝、結合組織の成熟、神経伝達物質の産生、活性酸素除去などに関与し、欠乏すると貧血、免疫不全、不整脈、創傷治癒遅延などを引き起こす可能性があるため、重要な微量元素のひとつです。銅欠乏症に関する学会公式ガイドラインは、2025年時点の本邦では発行されていないようです。今回資料を収集しGeminiさんに整理してもらいました。
どんなときに銅欠乏症を疑うか?
銅欠乏症のリスク要因
銅欠乏症は、以下の要因がある場合に起こりやすいとされています。
- 栄養関連:低栄養 、長期の非経口栄養(点滴や中心静脈栄養)、経腸栄養剤に銅がわずかしか含まれていない場合。
- 消化管疾患:胃切除、小腸病変、胃瘻・腸瘻患者、胃管・腸管栄養 。
- 薬剤性/サプリメント:
- 亜鉛製剤、亜鉛サプリメント、亜鉛を含む入れ歯安定剤の大量使用:亜鉛の過剰摂取は、銅と同じ吸収経路でメタロチオネインと結合し、銅の吸収を間接的に抑制します。
- H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬。
日本国内では、胃切除症例、胃瘻・腸瘻患者が多いこと、および亜鉛製剤の使用が増加していることから、銅欠乏症になりやすい状況が揃っていると指摘されています。
診断方法・鑑別診断
銅欠乏症の症状は、貧血や疲労のほか、しびれやふらつき、認知機能低下といった神経症候などが挙げられます。特に、以下の点から銅欠乏症を疑うことが重要です。
- 鉄・ビタミンB12・葉酸を補充しても貧血が改善しない場合。
- ビタミンB12欠乏症との鑑別:
- 銅欠乏症は、ビタミンB12欠乏症に似たしびれ、ふらつき、認知機能低下などの神経症候が見られます。ビタミンB12欠乏が認められない場合は、銅欠乏症を疑う対象となります。
- 従来、ビタミンB12欠乏症では血小板数が減ることが多いとされていましたが、銅欠乏症でも血小板数の減少を来すことが少なくないため、鑑別には注意が必要です。
- 骨髄異形成症候群(MDS)との鑑別:
- 骨髄所見で、前赤芽球、分葉核球、骨髄球などでの空胞や、形質細胞のヘモジデリン沈着など、明らかに異形成が見られる症例があり、情報がなければMDSと誤診される可能性が十分にあるため、MDSを疑う場合も銅欠乏症の鑑別を念頭に置くべきです。
他の微量栄養素と異なり、血漿中の銅濃度は炎症の急性期に上昇するそうです。ESPEN微量栄養素ガイドライン2022では、銅の測定の際にはCRPを同時に測定することが推奨されています。
銅欠乏症の治療
治療開始基準
具体的な血清銅値による治療開始基準は明確化されていませんが、以下の状況が治療の必要性を示唆します。
- 銅欠乏症の症状(貧血、疲労、しびれ、ふらつきなど)があり、銅欠乏症になりやすい背景がある場合。
- 亜鉛の過剰摂取による銅欠乏に注意が必要な場合:特に亜鉛補充の際には、過剰に血清亜鉛値を高くしないことが重要で、血清亜鉛値が41〜78 µg/dLの範囲にとどまれば銅欠乏症は起こりづらいことが示唆されています。
治療方法
本邦では銅欠乏に対して銅を単独で補充できる内服薬や静注薬は存在せず、経口からは以下の補充方法が挙げられます。
| 食品 | 銅含有量 | 備考 |
| 純ココア | 4 mg/100 g | 1日10〜30g使用すれば必要量が補充できます。銅欠乏の治療には純ココア1日10g(銅として0.6mg)、維持には5g(銅として0.37mg)で十分と示唆されています。 |
| 牛レバー | 5 mg/100 g | |
| エンシュア・リキッド | 0.25 mg/250 mL | 亜鉛を含むため、純ココアなどに比べると銅の補充効果は若干落ちます。 |
| エネーボ配合経腸用液 | 0.48 mg/250 mL 42 | 亜鉛を含むため、純ココアなどに比べると銅の補充効果は若干落ちます。 |
銅欠乏症の原因により治療法は異なりますが、銅の補充だけで改善することが多いとされています。
| 原因 | 治療 |
| 胃切除後や小腸病変などによる銅吸収低下 | 1日あたり2 mgの補充で2カ月以内に銅欠乏は改善。 |
| 亜鉛の過剰摂取による銅欠乏 | 亜鉛の減量・中止で欠乏の改善が期待されます。ただし、しびれやふらつきなどの神経症候は進行抑制にとどまることが多いです。 |
| 中心静脈栄養中の銅欠乏症 | 微量元素製剤の追加・増量。 |
治療の目標値
亜鉛補充の目標として、銅欠乏を招来しないための至適血清亜鉛値の範囲や、血清銅値の許容下限値に関するデータ蓄積が求められています。
- 亜鉛補充時の血清亜鉛目標値:Nishimeらによると、目標とすべき血清亜鉛値は41〜78 µg/dLとされています(透析患者を対象とした論文)。高見らは「血清亜鉛値が80 µg/dL以下にとどまれば、銅欠乏症は起こりづらいことを示唆している」と述べています。
- 銅欠乏時の血清銅値:「亜鉛欠乏症の診療指針 2018」によると、銅欠乏発現時の血清銅値は10 µg/dL未満の症例が多く、血清亜鉛値が200〜250 µg/dLを超える場合には、銅欠乏に注意すべきとされています 。
普段の食事で何とかならないの?
銅を含む食材について以下のサイトが詳しいです。
まとめ
亜鉛欠乏症への注目が高まり、亜鉛製剤の使用が増加することによって、銅欠乏症も近年増加傾向にあると報告されています。ビタミンB12欠乏症と紛らわしい神経症状や、MDSと紛らわしい貧血や汎血球減少をきたす場合に頭の隅から銅欠乏症を思い起こしましょう。
参考文献・記事
日本版重症患者の栄養療法ガイドライン検討委員会. 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024. 日集中医誌. 2025;32:S3.
高見昭良. 愛知医大・高見氏「近年増加している銅欠乏症」 亜鉛補充による銅欠乏症に注意が必要. 臨床ニュース | m3.com. 2021;987183:1-3.
湧上聖, 末永英文, 江頭有朋, ほか. 長期経腸栄養患者の銅欠乏に対する、ココアによる銅補充及び維持療法の検討. 日老医誌. 2000;37(4):304-308.
永野伸郎, 溜井紀子, 安藤哲郎, ほか. 透析患者における亜鉛と銅の役割. 日本透析医会雑誌. 2020;35(1):21-30.
